ドローン測量を始めると、意外と早い段階でつまずくのが「座標」と「高さ」の話です。
たとえば、ドローンからは緯度経度でデータが出てくるのに、現場ではXY座標で管理していたり、高さもそのまま使えると思っていたら実は楕円体高だったりします。
特に、日本の測量や建設の現場では、平面直角座標系や標高を前提にしていることが多いため、ドローンのデータをそのまま使うと「位置が合わない」「高さがずれる」といった混乱が起きやすくなります。
この記事では、そうした混乱をほどくために、座標系と高さの基礎をできるだけわかりやすく整理しながら、DJIのドローンや関連機器が実務でどう関わってくるのかをまとめます。
目次
座標と高さは、別々に考えるとわかりやすい
ドローン測量では、「位置」とひとことで言っても、実際には次の2つを分けて考える必要があります。
- 横の位置:どこにあるのか
- 縦の位置:どれくらい高いのか
このうち、横の位置には緯度経度やXY座標があり、縦の位置には楕円体高や標高があります。
ここがごちゃ混ぜになると、「座標は合っているのに高さが合わない」「高さは合っているのに地図上の位置がずれる」といった現象が起きます。
ドローン測量のデータを見るときは、まず横の基準と縦の基準を分けて考えることが大切です。
緯度経度とXY座標は、そもそも表し方が違う
緯度経度は「地球の表面を角度で表す方法」
緯度経度は、地球を丸いものとして見たときに、位置を角度で表す方法です。
たとえば「北緯◯度、東経◯度」という表現がこれにあたります。
GPSやGNSSが扱う基本的な位置情報は、この考え方がベースです。
そのため、ドローンが取得した元データは、まずこの系統の座標で記録されることが多くなります。
XY座標は「平面の地図上で位置を表す方法」
一方、測量や土木の現場では、位置を平面の地図上に落としてX座標・Y座標で扱うことが一般的です。
こちらは距離や面積の計算がしやすく、CADや設計図面とも相性がよいため、実務ではこちらの方が使いやすい場面が多くあります。
つまり、
- ドローンやGNSSは、もともと緯度経度寄り
- 現場実務は、XY座標寄り
というズレが最初から存在しているわけです。
日本の現場でよく使うのが平面直角座標系
日本では、測量や建設のために平面直角座標系が使われています。
これは、日本全国を19の区域に分け、それぞれに原点を設定してXY座標で扱いやすくしたものです。Source
たとえば北海道は、11系・12系・13系に分かれており、第12系は国土地理院の定義では「北海道のうちXI系及びXIII系に規定する区域を除く区域」とされています。第12系の原点は東経142度15分、北緯44度00分です。Source
そのため、業務で「12座標系のXYを使っている」という場合は、ドローンの元データをそのまま使うのではなく、
WGS84などの地理座標系から、平面直角座標系 第12系へ変換する
という作業が必要になることがあります。
DJIのドローンは、最初から第12系のXYで出るわけではない
ここは誤解されやすいところですが、DJIのドローンが取得する位置情報は、基本的にはGNSS由来です。
DJIのサポート情報では、GPSステータスで収集した画像はWGS84座標系に、RTKステータスで収集した画像はRTK設定画面で選択した座標系に基づくと説明されています。また、そこで使われる高さは楕円体高です。Source
つまり、実務で必要な第12系のXYや標高は、機体が最初からそのまま完全に出してくれるというより、
- 機体・RTK機器で位置を取得し
- アプリや後処理ソフトで座標系を整え
- 必要に応じて高さ基準も変換する
という流れで扱うのが基本です。
高さの話で必ず出てくる「楕円体高」と「標高」
横方向の座標系と同じくらい大事なのが、高さの基準です。
楕円体高とは
楕円体高は、GNSSが直接扱う高さです。
地球をなめらかな楕円体とみなしたとき、その面からどれだけ高いかを表します。
ドローンやRTK機器から出てくる高さは、この楕円体高であることが多く、DJIのサポートでも画像のPOSデータで使用される高さは楕円体高であると案内されています。Source
標高とは
一方、私たちが普段「海抜何メートル」と考える高さは、標高です。
国土地理院では、日本の標高の基準は平均海面であり、その平均海面を仮想的に陸地へ延長した面をジオイドと説明しています。Source
ジオイド高とは
楕円体面とジオイド面は一致していません。
この2つの面の差がジオイド高です。
国土地理院は、
「衛星測位で決まる高さ(楕円体高)からジオイド高を引くことで、標高を求めることができる」
と説明しています。Source
つまり式で書くと、次の関係になります。
標高 = 楕円体高 − ジオイド高
この関係を知らないままドローンの高さをそのまま使うと、「高さが合わない」という問題が起きやすくなります。
じゃあ実務では、どうやって高さを合わせるのか
実務では、基準点や既知点の高さに合わせるために、
「楕円体高を標高に直す」
という作業が必要になります。
ここでよくある考え方が、
基準点で差を見て、その差分だけ全体を補正する
という方法です。
たとえば、ある基準点で
- 測位した楕円体高:105.000m
- 欲しい標高:100.000m
だった場合、「5m引けばよい」と考えたくなります。
ただ、ここで誰もが一度引っかかるのが、次の疑問です。
「基準点でマイナス5mしたら、測量範囲全体も全部マイナス5mになるの?」
「でもジオイドって場所によって違うのでは?」
この疑問は、とても大事です。
基準点で高さを一律補正したら、範囲全体も同じだけ動くのか
結論から言うと、狭い範囲なら実務上はほぼ一律補正で扱えることが多いです。
ただし、理論的には場所ごとに同じとは限りません。
なぜなら、ジオイド高は全国どこでも同じ値ではなく、場所によって変わるからです。Source
つまり、本来は各点ごとに
標高 = その点の楕円体高 − その点のジオイド高
で計算するのが正しい考え方です。
基準点だけで求めた差分を、測量範囲全体にそのまま一律で当てはめる方法は、あくまで簡便的な運用です。
では、なぜ現場では一律補正でも成り立つことがあるのでしょうか。
それは、ドローン測量で扱う現場が比較的狭い場合、その範囲内ではジオイド高の変化が大きくないことが多いからです。
イメージとしては、巨大でゆるやかにうねる面のうえの、ごく小さな一部分だけを見ているようなものです。狭い範囲では「ほぼ同じ高さ差」とみなしても実用上問題になりにくいわけです。
ただし、範囲が広くなったり、厳密な高さ精度が求められたりする場合は、
「基準点で一律マイナス何m」だけでは足りない
という理解が重要です。
本来は、ジオイドモデルを使って点ごとに変換する
より正確に扱うなら、基準点1点だけで高さ差を決めるのではなく、ジオイドモデルを使って各地点ごとに変換するのが本来の考え方です。
国土地理院はジオイドモデルを提供しており、これを使うことで、楕円体高から標高への変換をより適切に行えます。Source
DJI Terraの座標系設定では、水平座標系だけでなく垂直座標系も扱うことができ、地理座標系や投影座標系、PRJファイルによる設定にも対応しています。Source
さらに、2025年7月にはDJI Terra 5.0.0で、日本のJPGEO2024標高座標系のサポートが追加されたことが案内されています。これにより、日本国内で新しいジオイド基準に対応した高さ処理がしやすくなっています。Source
つまり、実務での整理としてはこうなります。
- 簡易的な合わせ方:基準点の差分で全体を一律補正する
- より正確な合わせ方:ジオイドモデルを使って各地点ごとに標高へ変換する
この違いを知っているだけでも、現場での判断がかなりしやすくなります。
位置精度を上げる方法としてのGCP・RTK・PPK
座標や高さをきちんと合わせるためには、測位方法そのものも大事です。
代表的なのが、GCP・RTK・PPKです。
GCP
GCPは地上基準点のことです。
あらかじめ座標が分かっている点を地上に設置し、それを使って空撮データの位置を補正します。
メリットは、最終成果を欲しい座標系に合わせやすいことです。
たとえば、GCPを平面直角座標系 第12系で準備すれば、その系で成果を整えやすくなります。
一方で、設置や測量の手間がかかるのが弱点です。
RTK
RTKは、飛行中にリアルタイムで補正情報を受けながら高精度測位を行う方法です。
DJIでは、RTKステータスで取得した画像は、RTK設定画面で選択した座標系に基づくと案内されています。Source
即時性が高く、現場で効率よく作業しやすいのが強みです。
PPK
PPKは、飛行後に基準局データなどを使って後処理で精度を高める方法です。
リアルタイム通信に頼らない分、条件によってはRTKより扱いやすい場面もあります。
どれが正解というより、
- 手間をかけても基準をしっかり合わせたいならGCP
- 現場で効率よく高精度を狙うならRTK
- 後処理前提で安定して詰めたいならPPK
という考え方で選ぶとわかりやすいです。
DJIの関連機器は、日本の座標系にどう向き合っているか
DJIの最新RTK関連機器であるD-RTK 3については、公式FAQで、
- リレーステーションモードとブロードキャストモードではWGS84
- ローバーステーションモードでは、使用するRTKソースによって座標系が決まる
と説明されています。Source
また、DJI Enterpriseアプリには座標変換機能があり、取得した座標を標準的な投影座標へ変換できるとされています。外部記事でも、平面直角座標系などへの直接出力に対応する旨が紹介されています。Source Source
このことから、DJIの機体やRTK機器は、最初から日本の第12系XYをそのまま出すというより、
WGS84系をベースにしつつ、アプリや後処理で日本の実務座標系へ合わせていく
という考え方で使うのが自然です。
この記事のポイントをひとことでまとめると
ドローン測量で混乱しやすいのは、横の座標系と縦の高さ基準が別物なのに、一緒に考えてしまうことです。
今回のポイントを整理すると、次のようになります。
- ドローンの元データは、WGS84や楕円体高ベースで扱われることが多い
- 日本の実務では、平面直角座標系や標高で扱いたい場面が多い
- そのため、横は座標変換、縦はジオイドを使った高さ変換が必要になる
- 基準点で高さを一律補正する方法は、狭い範囲では実務上使えることがある
- ただし理論的には、ジオイド高は場所によって異なるため、厳密には各点ごとの変換が正しい
- DJI TerraやRTK関連機器は、日本の座標系や新しいジオイド基準に近づく方向で対応が進んでいる
つまり、
「ドローンはそのまま使えない」のではなく、「どの基準で出てきたデータかを理解して、現場の基準へ合わせる」ことが大切
ということです。
ここがわかると、ドローン測量の話が一気に整理しやすくなります。