ドローンを飛ばしていると必ず耳にする「Pモード」「Sモード」「ATTIモード」といった用語。これらは総称して「フライトモード(飛行モード)」と呼ばれ、機体の挙動を大きく左右する重要な設定です。
しかし、DJIをはじめとするドローンメーカーは、機体世代や用途(コンシューマー機/産業機)ごとに搭載モードが異なり、初心者はもちろん、複数の機体を扱う実務パイロットでも混乱しがちです。
本コラムでは、各飛行モードの意味と使用用途を整理した上で、実は「速い・普通・遅い」の3構成が基本となっていることを解説し、さらに時代背景や機体タイプによってどのようにモードが組み合わされているかまで、体系的に掘り下げていきます。
1. ドローンの飛行モードとは?
ドローンの飛行モードとは、機体の”性格”を切り替えるスイッチのようなものです。同じ機体でもモードを変えるだけで、俊敏に動くレース仕様にも、微細な操作が可能な精密撮影仕様にも変身します。
具体的には、以下の3つの要素の組み合わせによってモードが定義されます。
・GPSの有効/無効:機体が自分の位置を認識し、自動でホバリングできるかどうか ・障害物センサーの有効/無効:周囲の障害物を検知して衝突を回避するかどうか ・最大速度:どれだけ俊敏に、あるいはゆっくり動くか
パイロットはシーンや目的に応じてこれらを切り替え、最適な飛行を実現します。
2. 主要モードの意味と使用用途一覧
以下、DJIをはじめとする主要ドローンに搭載されている代表的なモードを、GPS・障害物センサー・速度の観点で整理しました。
■ 飛行モード早見表
| モード名 | 略称 | GPS | 障害物センサー | 速度 | 主な使用用途 |
|---|---|---|---|---|---|
| ポジショニングモード | P | ✅ ON | ✅ ON | 普通 | 標準空撮・初心者・通常業務全般 |
| ノーマルモード | N | ✅ ON | ✅ ON | 普通 | 現行機の標準モード(P後継) |
| スポーツモード | S | ✅ ON | ❌ OFF | 速い | 追跡撮影・被写体追従・移動 |
| シネマティックモード | C | ✅ ON | ✅ ON | 遅い | 滑らかな映画的映像・パン撮影 |
| トライポッドモード | T | ✅ ON | ✅ ON | 激遅 | 屋内・狭所・近接点検・精密操作 |
| アティチュードモード | A / ATTI | ❌ OFF | ❌ OFF | 普通 | GPS遮断環境・上級者・橋下点検 |
| ファンクションモード | F | ✅ ON | ✅ ON | 普通 | IOC呼び出し(旧Phantom世代) |
| マニュアルモード | M | ❌ OFF | ❌ OFF | 速い | FPV機・完全手動制御・レース |
■ 各モードの詳細解説
Pモード(Positioning:ポジショニング) GPSと障害物センサーの両方が有効な、最も安定した標準飛行モードです。旧Phantomシリーズ・旧Inspireシリーズの世代で採用されており、初心者から業務利用まで幅広くカバーします。機体が自動でホバリング位置を保持し、風に流されにくいのが特徴です。
Nモード(Normal:ノーマル) Pモードの後継として、Mavic 2以降の現行機で採用されている標準モードです。機能的にはPモードとほぼ同一で、GPS・障害物センサーが有効、標準的な速度で飛行します。DJIは世代交代のタイミングで呼称を「P」から「N」へ切り替えました。
Sモード(Sport:スポーツ) 速度を重視した高速モードです。GPSは有効ですが、障害物センサーは無効化されます。時速60〜90km級のスピードで飛行できる反面、衝突リスクが上がるため熟練者向けです。動く被写体の追跡撮影や、広範囲を素早く移動したい場面で活躍します。
Cモード(Cinematic:シネマティック) 映像制作用途に最適化された低速モードです。スティック操作に対する機体の反応がマイルドになり、加減速も滑らかになるため、映画のような美しい映像を撮影できます。DJI MiniシリーズではCineSmoothモードという名称で搭載されています。
Tモード(Tripod:トライポッド) 「三脚」の名の通り、機体を極めてゆっくり動かすモードです。屋内や狭所での精密操作、近接での点検作業、繊細な構図決めに使用します。最大速度は1〜3m/s程度に抑えられ、あたかも三脚の上でカメラを動かすような滑らかさを実現します。
Aモード(Attitude/ATTI:アティチュード) GPSと障害物センサーの両方が無効となる姿勢制御専用モードです。機体は水平を保つ制御のみを行い、風に流されても自動で位置を戻しません。橋の下・トンネル内・高圧線周辺・屋内などGPSが受信できない環境での飛行に用いられます。完全な手動操作が求められるため、上級パイロット向けのモードです。
Fモード(Function:ファンクション) 旧Phantomシリーズ(Phantom 2〜4)・旧Inspireに搭載されていた特殊モードです。単独で特殊な飛行をするのではなく、「IOC(Intelligent Orientation Control:インテリジェント方向制御)」を有効化するための入口として機能します。IOCにはコースロック(進行方向固定)・ホームロック(帰還方向固定)があり、上級撮影テクニックとして活用されました。Mavic 2以降では廃止され、IOC相当機能はインテリジェントフライトモード内に統合されています。
Mモード(Manual:マニュアル) DJI FPVやAvataなどのFPV機に搭載されている完全手動制御モードです。姿勢制御すら最小限で、機体のロール・ピッチ・ヨー・スロットルをパイロットが完全にコントロールします。曲芸的な飛行やレース用途で使われ、極めて高度な操縦技術を要します。
3. モードは「速い・普通・遅い」の3構成が基本
ここまで多くのモードを紹介してきましたが、実はすべてのモードは”速度”という軸で見ると3つに集約されます。
■ 速度ベースでのモード分類
| 速度区分 | 代表モード | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 🚀 速い | Sモード / Mモード | 障害物センサーOFF、俊敏な挙動 | 追跡・移動・レース |
| ✈️ 普通 | Pモード / Nモード / Fモード | 標準的な挙動、安定性重視 | 通常空撮・業務全般 |
| 🐢 遅い | Cモード / Tモード | 滑らか、精密操作向け | シネマ撮影・屋内・点検 |
この3構成を理解しておくと、どの機体を触っても**「今どの速度帯のモードを使っているか」**が直感的に判断でき、モード切替の目的が明確になります。
■ なぜ3構成なのか?
これは人間の”操縦意図”が本質的に3つに分かれるからです。
・「速く移動したい」(対象を追う、距離を稼ぐ) ・「普通に飛ばしたい」(通常の空撮・業務) ・「精密に動かしたい」(映像美を追求、狭所での作業)
メーカーはこの3つのニーズに応える形で、速度別のモードを標準装備しているのです。
4. 時代・機体タイプ別のモード組み合わせの違い
「3構成が基本」と述べましたが、実際にはDJIをはじめとするメーカーが、時代・機体タイプに応じて異なる組み合わせを採用しています。ここが多くのパイロットが混乱するポイントです。
■ 時代別:呼称と構成の変遷
| 時代 | 代表機体 | モード構成 |
|---|---|---|
| 第1世代(〜2016年頃) | Phantom 2 / 3 / Inspire 1 | P / A / F(Fモード=IOC呼び出し) |
| 第2世代(2016〜2018年) | Phantom 4 / Mavic Pro | P / A / S(Sモード登場、Fモード縮小) |
| 第3世代(2018〜2022年) | Mavic 2 / Air 2 / Mini | N / S / C(またはT)(PからNへ改称) |
| 現行世代(2022年〜) | Mavic 3 / Mini 4 Pro / Air 3 | N / S / C(3構成に完全整理) |
ポイント: ・Fモードは第1世代の遺産であり、現行機には存在しません ・PモードとNモードは機能的に同じもので、世代交代で名称が変更されただけです ・Aモード(ATTI)は現行コンシューマー機では”隠しモード”化しており、緊急時に自動遷移する仕様に変わっています
■ 機体タイプ別:一般機と産業機の違い
同じDJI製でも、**一般機(コンシューマー)と産業機(エンタープライズ)**では、モード構成の思想が大きく異なります。
【一般機(Mini・Air・Mavicシリーズ)】
| 速い | 普通 | 遅い | ATTI |
|---|---|---|---|
| S | N | C | ❌ 手動切替不可 |
特徴: ・「N / S / C」の3構成に完全整理 ・ATTIモードはユーザーが任意で選べず、GPS喪失時に自動遷移 ・**”誰でも安全に飛ばせる”**設計思想
【産業機(Matrice・Mavic Enterpriseシリーズ)】
| 速い | 普通 | 遅い | ATTI |
|---|---|---|---|
| S | N(またはP) | T | ✅ 手動切替可能 |
特徴: ・T(Tripod)モードが遅い側の代表として採用(近接点検・屋内対応) ・Aモード(ATTI)を明示的に有効化可能(設定で「T/N/S」→「A/N/S」に変更) ・Dual Operator(2オペレーター運用)や自動運用(Dock連携)など、業務向けの拡張モードが加わる ・**”プロが状況に応じて選び分ける”**設計思想
【FPV機(DJI FPV・Avataシリーズ)】
| 速い | 普通 | 完全手動 |
|---|---|---|
| S | N | M(Manual) |
特徴: ・低速モードの代わりに**Mモード(完全手動)が搭載 ・ATTIモードも独立して使用可能 ・“レース・アクロバット飛行”**を前提とした構成
■ 一目でわかる:機体タイプ別モード対応表
| 機体タイプ | 速い | 普通 | 遅い | ATTI(手動選択) | 特殊モード |
|---|---|---|---|---|---|
| 旧Phantom(第1世代) | – | P | – | ✅ A | ✅ F(IOC) |
| Phantom 4系(第2世代) | ✅ S | P | – | ✅ A | ✅ F(縮小) |
| 一般機(Mini/Air/Mavic現行) | ✅ S | N | ✅ C | ❌ 自動のみ | ❌ |
| 産業機(Matrice/Mavic Enterprise) | ✅ S | N | ✅ T | ✅ A | ✅ Dock連携等 |
| FPV機(FPV/Avata) | ✅ S | N | ❌ | ✅ A | ✅ M(完全手動) |
5. まとめ
・ドローンの飛行モードは、GPS・障害物センサー・速度の組み合わせで定義される ・多様なモード名があるが、本質は**「速い・普通・遅い」の3構成**に集約される ・時代の変遷により、P→Nへの呼称変更、Fモードの廃止、モード構成の3層化が進んだ ・機体タイプにより、一般機は「N/S/C」、産業機は「N/S/T+A」、FPV機は「N/S/M」と最適化されている ・パイロットは機体を変えるたびに、その機体のモード構成を把握することが安全飛行の第一歩
飛行モードを正しく理解することは、単なる操縦技術の向上にとどまらず、事故防止・機体性能の最大活用・撮影表現の幅の拡大に直結します。次回機体を手に取ったときは、ぜひ「今、自分はどの速度帯のモードにいるのか」を意識しながら飛ばしてみてください。
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